デジタルカメラの世界で、最も普及しているセンサーサイズといえば「APS-C」。
初心者からハイアマチュアまで幅広く使われ、ミラーレスカメラやVlogカメラを選ぶ上で欠かせない存在です。
しかし、このAPS-Cと言う名称が、元々フィルム時代の「アドバンストフォトシステム(APS)」に由来することを覚えている人は、年々少なくなっています。
今回は、APS-Cセンサーが生まれた背景と、元になったアドバンストフォトシステムとは何だったのかを振り返りながら、名前に込められた歴史を紐解いて行きましょう。
▼ もくじ
APS-Cセンサーとは?現代カメラのスタンダードになった理由
参照:キヤノン
APS-Cセンサーは、デジタルカメラに採用されている撮像素子の一種で、フルサイズ(35mm判)より二回りほど小さいセンサーです。
一般的なサイズは 23.6mmx15.7mm(メーカーにより微差あり)。
フルサイズの約1.5倍(メーカーにより1.6倍)の焦点距離換算が必要になる「クロップ比」として知られています。
そのAPS-Cがカメラ業界で広く普及した理由は、以下の通りです。
●製造コストが低く、カメラ本体価格を下げられる。
●レンズを比較的小型軽量にできる。
●フルサイズよりセンサーサイズが小さくなっても、十分な画質と高感度性能を確保できる。
●一眼レフ/ミラーレス問わずシステム化しやすい。
●画質と携帯性のバランスが非常に良く、プロのサブ機から入門機まで広く使用される。
これらの理由から、現代のベストバランスセンサーとして、今もミラーレスの主力サイズであり続けています。
しかしこの「APS」という名称は、元々フィルム規格の名前であり、デジカメ用に後付けで作られたものではありません。
では、その元となったアドバンストフォトシステムとは、どのようなものだったのでしょうか?
アドバンストフォトシステム(APS)とは?

アドバンストフォトシステムは、コダック・富士フイルム・キャノン・ミノルタ・ニコンが共同で1996年に発表した、新しいフィルム規格です。
従来の35mmフィルムに代わる、次世代メディアとして開発されました。
APSはそれまでのフィルムよりも「便利さ」に重きを置いた規格で、以下の特徴があります。
●コンパクトなカートリッジ式フィルムになっており、出し入れが簡単でフィルム装てんの失敗がない。
●撮影情報をフィルムに記録する “磁気ストリップ” を搭載し、EXIFのような記録が可能で、プリント時に情報を活用できる。
(EXIFとは、デジタル画像データのように、撮影日時やシャッタースピード・絞りなど、撮影データを記録したもの)
●3種類のアスペクト比(C/H/P)を選べる。
※ C=クラシック(3:2)・H=ハイビジョン(16:9)・P=パノラマ(3:1)
●現像後もフィルムは、カートリッジに収納されたまま返却されるので、傷やホコリの心配が少ない。
APSは、当時のアナログ写真としては革新的で、「便利なフィルム」「未来の写真システム」として期待されていました。
しかし、1990年代後半から急激に進化を始めた「デジタルカメラ」の台頭により、APSは普及の時間を得られませんでした。
そして2012年頃、市場から姿を消してしまいます。
それでも、APS-Cだけはデジタルの世界に引き継がれ、生き残ることになりました。
APS-Cセンサー誕生は中途半端ではなく”合理的なサイズ” だった

デジタルカメラ初期の撮像素子は、技術・コスト・歩(ぶ)留まりの制約から、大型化が非常に難しい ものでした。
特に35mmフィルムと同等の「フルサイズ」を作るには、開発当時の半導体技術では非常に高コストで歩留まりも悪く、とても一般向けに量産できる状態ではなかったんです。
そこでメーカー各社は、APSフィルムの露光面サイズクラシック比(25.1mm×16.7mm)に近い大きさの撮像素子なら作りやすく、既存のレンズ資産との整合性もあると言う理由から、デジカメ用として「APS-Cに近いセンサーサイズ」を開発したんですね。
実際のAPS-Cセンサーは、厳密にAPSフィルムと同サイズではありませんが、“APS(クラシック)サイズを基準にしたデジタル版” として名付けられました。
メーカーによって微妙なサイズ差があるのは、当時の製作装置やコスト条件によるものですが、最終的にフルサイズの約2/3ほどの面積で落ち着き、現在のAPS-Cとして統一的に扱われるようになったと言う訳です。
このような経緯から、当時のフィルムAPSの開発は、新しいデジタルカメラの登場に大きく関わったことは否定できないでしょう。
APSが消えてもAPS-Cの名前が残った理由

結果的にアドバンストフォトシステム(APS)は、フィルム市場では商業的成功を収められませんでした。
しかし、その理念はデジタルカメラ時代に引き継がれています。
●APSの「コンパクト」「合理性」の思想は、APS-Cセンサーに通じる。
●APS用レンズ資産や光学系の考え方が、デジタル設計に応用された。
●名称が残ることで、フィルム時代との連続性を示す意味もあった。
つまりAPS-Cは、単なる “フィルム規格の名残り” ではなく、デジタルカメラへの移行期に最適化された必然のサイズとして生まれたのです。
そして現代、APSと言うフィルム規格を覚えている人が減っても、APS-Cと言う言葉は世界中のカメラユーザーに使われ続けています。
それは、フィルムからデジタルへと言う大転換期を象徴する、ひとつの「歴史の痕跡」と言えるかも知れませんね。
まとめ

●APS-Cの名前はフィルムの「アドバンストフォトシステム(APS)」が由来。
●APSは便利さを追求した革新的フィルム規格だった。
●デジタル初期は技術的にフルサイズが作れず、APSサイズが最大だった。
●フィルム規格が消えても、APS-Cセンサーとして名前は生き続けた。
APSが登場した1996年から約30年。
今やもう、その存在を知る人も少なくなりましたが、APS-Cと言う言葉に触れるたび、カメラがアナログからデジタルへ飛躍したあの時代の動きを思い出しますね。
そんな背景を知っていると、今のデジタルカメラをアクションカメラも含め、より深く楽しめることでしょう。
最後にフィルムAPSの終焉を記した動画がありますので、ぜひご覧になってみて下さい。
協力 ノスタグラフのカメラとさんぽさん
参考サイト:Wikipedia APS-Cサイズ
参照:
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